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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)1023号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士鈴木匡の上告理由について。

原判示によれば、有価証券の売買取引を業とする水谷証券株式会社と上告人との間に成立した外務員契約において、上告人は外務員として、右会社の顧客から株式その他の有価証券の売買又はその委託の媒介、取次又はその代理の注文を受けた場合、これを右会社に通じて売買その他の証券取引を成立させるいわゆる外務行為に従事すべき義務を負担し、右会社はこれに対する報酬として出来高に応じて賃金を支払う義務あると同時に上告人がなした有価証券の売買委託を受理すべき義務を負担していたものであり、右契約には期間の定めがなかつたというのであるから、右契約は内容上雇傭契約ではなく、委任若しくは委任類似の契約であり、少くとも労働規準法の適用さるべき性質のものでないと解するを相当とする(原判決はこれを雇傭契約と言つているが、右は単にその法律見解を述べたに過ぎないものと解すべきである)。果してそうだとすれば、右契約が労働規準法二〇条の適用下にありとしその前提に立つて種々論議する所論は採用の余地なきものと言わざるを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員の一致(但し裁判官斉藤悠輔の補足意見あり)で主文のとおり判決する。

裁判官斉藤悠輔の補足意見は次のとおりである。

原告の本訴請求は、「被告は原告のなす株式等有価証券の売買の委託申入を受理せよ。被告は原告に対し昭和三〇年七月二〇日以降右委託を受理するまで一ケ月金二万円に相当する金員の支払を求める」いわゆる給付判決を求めるものであつて、その請求原因とするところは、判示のごとき外務員契約によるというのである。されば、仮に原告主張のごとき外務員契約があるものと仮定しても、具体的な顧客より特定した株式有価証券の売買の委託申入を受けた事実がない限りは被告に対しこれが受理を求めることができないものであることは、その主張自体により明らかである。しかるに、原告からかかる具体的に特定した委託申入のあつたことの主張、立証がないのであるから、本訴請求は、その主張自体から許容できないものといわなければならない。それ故、本件上告は、既にこの点から採るを得ないと考える。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 高木常七)

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